●『第三十五話』
●『タクちゃんの部屋』
『同棲のススメ』


明転すると段ボールの山。
その山が動くと、拓弥が現れる。
拓弥「よっこいしょ・・あ、これは重いや」
と、よろめきそうになる。
拓弥「なに、なにこっちの山は・・」
と、咲美の声。
咲美「そっちはね・・本」
拓弥「本・・・本か・・」
と、拓弥、別の場所にその本の入った段ボールを置く。
拓弥「あれ・・あのさあ・・」
咲美の声「なに?」
拓弥「咲美ちゃんって、本読む人なの?」
咲美の声「え、そうだよ・・そっちに積んである段ボールは全部本」
拓弥「へえ、あ、そう・・」
咲美の声「これでも結構ブック・オフに売って処分したんだけど・・」
拓弥「え、まだあったんだ」
咲美の声「うん・・そっちのはねえ、どうしても捨てられない分」
拓弥「へえ・・マンガとか?」
咲美の声「違うよ、本だよ、本。普通の本・・マンガは本じゃないでしょう」
拓弥「え、マンガも本じゃない」
咲美の声「え、ちがうよ。マンガはマンガっていうでしょう・・あ、これ、台所用品」
拓弥「ああ、持って行こうか?」
咲美の声「あ、いや、いいよ、持ってく」
と、咲美が立ち上がり、初めてその姿が見えた。
今まで段ボールの向こう側にしゃがみ込んでいたらしい。
咲美「お茶碗とかどうする?」
拓弥「とりあえず、台所へ持ってって・・」
咲美「あいよ」
拓弥「これは・・なんの本なの?」
咲美「横溝正史」
拓弥「え・・」
咲美「え、知らない? 横溝正史。『獄門島』とか『八つ墓村』とか『犬神家の一族』とか・・」
拓弥「咲美ちゃん」
咲美「なに? 拓ちゃん」
拓弥「これさあ、見てわかると思うんだけどさあ」
咲美「うん」
拓弥「この部屋に入り切らないよ」
咲美「私もなんか、そんな気がする」
拓弥「このままだと、この荷物の間で寝起きすることになると思うけど」
咲美「なるなる」
拓弥「いや、ボクもね・・部屋に来ていいよ、って言ったことは言ったからさあ」
咲美「うん、そのお言葉に甘えちゃった」
拓弥「うん・・うん、甘えていいんだけどね」
咲美「ごめんね、ホントに、拓ちゃんってホントいい人だよね」
拓弥「うん・・そう言われるとねえ・・そのあとに言おうと思っていたことがね、とても言い出しにくくなっちゃうんだよね」
咲美「え、なになに?」
拓弥「咲美ちゃんが引き払ったアパートってさあ・・」
咲美「アパートじゃないよ、マンションだよ」
拓弥「ああ、マンションね」
咲美「2LDKのマンション」
拓弥「マンションね、マンション」
咲美「あれ、拓ちゃんちってさあ」
拓弥「うちはねえ、コーポなの」
咲美「コーポ? コーポってなに? 生協?」
拓弥「コーポっていうのはねえ、見ての通りで、アパートでもなし、マンションでもなしっていう感じの住まいね」
咲美「ふうん・・なんか、どっちかっていうとアパートだよねえ」
拓弥「うん、まあねえ、キミの住んでた2LDKのマンションと比べたら、それはアパートでしょう・・ちなみに生協はコープね」
咲美「あ、そうだ、生協はコープだよ」
拓弥「ここはコーポ」
咲美「惜しい・・」
拓弥「んとねえ・・キミが来るのはいいんだよね・・」
咲美「これからしばらくお邪魔しまーす」
拓弥「うん、いいよ、いいよ・・でも、ちょっといろんな話合いする前に、いろんなモノが来ちゃったから、ほら、いつ話合おうか、って思っちゃったりしてねえ・・けっこう、ほら、キミと話しているとね、ボクがね、悪い意味じゃないよ、悪い意味じゃないけど、丸め込まれちゃったりするからさあ」
咲美「丸め込む? なにを?」
拓弥「あ、いやいや・・・ん、と、まずなにから話そうかな・・家賃、これ大事だからね。前のマンションの家賃ってどれくらいだったの?」
咲美「十五万」
拓弥「十五万・・ちょっと今月休んじゃったなあ、って思った時のバイト代と一緒だ」
咲美「あ、でも管理費別だから」
拓弥「ああ、ボクのバイト代では、その家賃は払えないと・・」
咲美「そうねえ・・隣近所みんな風俗とか、水商売とかばっかだったからねえ」
拓弥「でも、もう、毎月十五万を払う必要はなくなったわけだ」
咲美「そう・・楽になった」
拓弥「ずいぶん楽になったよね」
咲美「これで働かなくてすむ」
拓弥「いや、いや・・そうなの?」
咲美「よかった、拓ちゃんありがとう」
拓弥「いやいや、だからね・・ここの家賃なんだけどね」
咲美「うん」
拓弥「ここがだいたい月に八万円くらいなんだよね」
咲美「半額だね、うちの・・広さは三分の一くらいだけど」
拓弥「あのね・・どうだろう・・一つ提案なんだけど、ここの家賃を折半するっていうのは」
咲美「折半?」
拓弥「半分に折ると書いて、折半」
咲美「折半」
拓弥「八万円を四万、四万で分けるのを折半っていうの」
咲美「え? だってここ、拓ちゃんの家でしょう?」
拓弥「そうだよ」
咲美「拓ちゃんもさあ、私と住みたいわけでしょ」
拓弥「住みたいよ、うん」
咲美「だから、まあ、まあ、ねえ。咲美も拓ちゃんと住みたいでしょ」
拓弥「うん、そこは一緒ね」
咲美「二人でいる楽しい時間は、お金には換えられない」
拓弥「うん・・それはもちろん、そうだよ、お金には換えられない」
咲美「そうでしょ。咲美がいなかったら、この部屋はただの地獄でしょ?」
拓弥「ただの・・地獄?」
咲美「むさくるしい、男の一人住まいじゃない」
拓弥「確かにね・・それはそうだけどね」
咲美「そこにね、咲美というなんちゅーか、なんちゅーかが来たんだよ。光明来たれりでしょ。電気かなんかだと思って? 家賃はね、楽しさで払う。楽しさで部屋代、楽しさで光熱費」
拓弥「え? 全部?」
咲美「拓ちゃん、ベッド持ってないよね」
拓弥「うちは布団だからね」
咲美「咲美がベッド持ってきてあげる。ウオーターベッド」
拓弥「今まで使ってたベッド?」
咲美「あれ、五十万くらいしたよ」
拓弥「だから、もうこの部屋には入らないよ」
咲美「ウオーターベッドだよ。家賃は払えないけど、ベッド持ってくるから」
拓弥「この状態ではベッドは入らないって」
咲美「まだ、マンションに大きな家具が残ってるんだけど・・」
拓弥「どうするのよ、それは」
咲美「なんかさ、物が多すぎるんだよね。だって私のテレビどこに置くの?」
拓弥「テレビあるじゃない、そこに」
咲美「咲美がもっといいの持ってきてあげる」
拓弥「なに?」
咲美「知ってる? プラズマテレビ」
拓弥「え?」
咲美「プラズマテレビ」
拓弥「置く場所がないでしょ?」
咲美「薄いんだよ」
拓弥「薄くてもさ、こんだけ狭いとさ、テレビとの距離がないからね」
咲美「壁にはり付いて見る」
拓弥「嫌だよ、そんなの」
咲美「すごい大画面なんだよ・・『笑っていいとも』観てごらんよ」
拓弥「なんでプラズマテレビで『笑っていいとも』観るんだよ」
咲美「タモさん、実物大だよ」
拓弥「そうだけど・・視界からテレビがハミ出しちゃうじゃない」
咲美「わかった」
拓弥「なにがわかったの?」
咲美「拓ちゃんの、あのビデオの山をなんとかすればいいんじゃないの」
拓弥「なんとかするって、どうするのよ」
咲美「捨てる」
拓弥「え? ダメだよ!」
咲美「『ギミアぶれいく』とか、なんでとっておくかな」
拓弥「おもしろいもん」
咲美「『ギミアぶれいく』を、わざわざ持っている人なんていないよ」
拓弥「いないから貴重なんじゃない。そんな映画とか、誰かのコンサートのビデオとかなら、TSUTAYAに行けばすむことでしょ。でも、『ギミアぶれいく』は全国どこのTSUTAYAへ行っても、観れないんだよ。『笑うセールスマン』の特番とか入ってるんだよ」
咲美「それはちょっと貴重」
拓弥「貴重だよ。それがいつでも観れるんだよ」
咲美「『なるほど・ザ・ワールド春の祭典』も?」
拓弥「貴重でしょう」
咲美「『わくわく動物ランド』も?」
拓弥「そうでしょ」
咲美「私、あれ持ってるよ。DVDレコーダー。もう全部DVDにしちゃおうよ。便利だよ、DVD。デジタル、ビデオ・・デジタル」
拓弥「ディスクだよ、最後は」
咲美「あれでさあ、こんなCDみたいなのにすればいいんだよ」
拓弥「CDじゃないよ、それがDVDなんだってば!」
咲美「とにかく捨てようよ。私、人の物捨てるの得意なんだ」
拓弥「人の物は捨てちゃダメでしょう」
咲美「だってもうこれから一緒に住むってことはさ」
拓弥「住むってことはなに?」
咲美「ここは拓ちゃんの家でもあり、私の家でもあるわけだから」
拓弥「だからって好き勝手なことしちゃダメなの」
咲美「そうなの?」
拓弥「そうなの」
咲美「この家の憲法に従わなきゃなんないの?」
拓弥「憲法・・そう、憲法みたいなものがあるの」
咲美「それは誰が決めたの?」
拓弥「まだ決まってない」
咲美「いつ決まるの?」
拓弥「これから決めるの」
咲美「誰が?」
拓弥「ボクと咲美ちゃんで」
咲美「それは決めなきゃいけないの?」
拓弥「そうなの、その話がしたかったの・・決めないとダメなの。こういうのをきちんとしておかないと、すぐにケンカになっちゃうんだから」
咲美「ケンカなんかしないじゃん・・私、拓ちゃん大好きだし、拓ちゃんも私のこと大好きで・・いつもいつも恋人気分」
拓弥「いやいやいや・・一緒に住むとなるとね、いつまでも恋人気分じゃいけないんだよ」
咲美「え? そうなの?」
拓弥「そうなの」
咲美「あら、大変」
拓弥「決めようね」
咲美「はあい・・」
拓弥「ん・・まず、なにから決めようか」
咲美「第一条」
拓弥「ん・・まずねえ」
咲美「なんでしょう?」
拓弥「お茶を入れる時には、一声掛けるようにして欲しいね」
咲美「それ? それが第一条?」
拓弥「うん、順番はまあいいんだけどね・・思いついた順に言ってるだけだから・・お茶を入れる時は、一声掛けるようにする」
咲美「入れるよーって?」
拓弥「いや、入れるよー、じゃなくて、入れるけど飲む? って」
咲美「ああ、お伺いする」
拓弥「そうそう・・いつもね、咲美ちゃんは自分で自分の分しか入れないじゃない。ボクにも、っていうタイミングをいつも逃すんだよね」
咲美「ああ、それは思いもしなかった。お茶なんて個人的な事だと思ってたから」
拓弥「一緒にお茶を飲みたいじゃない」
咲美「あ、そういうことね、第一条、お茶は一緒に飲む」
拓弥「ん・・第一条っていうほどのことでもないかなとは思うけど、まあ、そういうこと」
咲美「お茶は一声」
拓弥「あとねえ、ボクが買ってきた物を食べた場合は、食べましたって言う」
咲美「ククレカレーとか?」
拓弥「ククレカレーもそうだし、冷凍餃子もそうだし、フルーチェもそうね」
咲美「拓ちゃんが帰ってきたら、報告する」
拓弥「そう。でなかったら買ってまた置いておくとかね」
咲美「あ、昨日、いろいろ食べました」
拓弥「今、言うかな」
咲美「え? でも言った方が良いんでしょ、報告した方が良いんでしょ」
拓弥「そう、それはそうなんだけどね・・いろいろ・・か」
咲美「だいたい食べました」
拓弥「食べようと思った時にないとね、悲しいのよ、実際」
咲美「はい・・第二条、食べたら食べたと言う」
拓弥「そうです・・」
咲美「食べたら、食べたと言う。食べたら食べたと言う。食べたら食べたと言う・・」
拓弥「そんなに繰り返さないと憶えられないの?」
咲美「大丈夫、大丈夫・・」
拓弥「あとね、小銭をね、募金しようと思って貯めてるんだけどね、二十四時間テレビのためのものね」
咲美「武道館に持っていく」
拓弥「そう、そこでモー娘に握手してもらうの。毎年行ってるの」
咲美「そうなんだ」
拓弥「それでね、こないだちょっと手に持ってみたらね、なんか軽くなってるんだよね」
咲美「不思議だねえ」
拓弥「中を見たら、一円玉と五円玉しかないんだよね。結構、ボクはね、気づいたら百円玉とか五百円玉とかを入れてるんだけど、そいつらの姿がないのよ。いや、疑っているわけじゃないんだけど、ほら、この部屋には二人しか人がいないわけだからさ。一応ね、それも話合って決めておいた方がいいかなって思うんだよね。ね、募金は盗まない」
咲美「募金を盗りましたって報告する?」
拓弥「いや、ダメ。報告してもダメ。募金に関してはとにかく盗まない。いつか寝たきりの老人のためのお風呂カーになるものなんだからね」
咲美「はい。第三条、募金は盗まない」
拓弥「あとは、お風呂場の石鹸箱にシャワーの水が溜まりっぱなしになってて、いつも石鹸がどろどろになってるんだよね、クラゲみたいになってるんだよね。できればやめて欲しいんだけどね」
咲美「第四条、石鹸をクラゲにしない」
拓弥「そう、石鹸をクラゲにしない。あとはねえ、お互いの携帯とかは見ないようにしようね。それからインターネットをやる時、ボクの『お気に入りフォルダ』の中を見たりしない。メールも読んじゃダメ。ね。あとは、家に来たボク宛の届け物は開けない。家に帰ってきた時に、留守電のランプがピカピカしてても、勝手に聞かない」
咲美「今までそんなことしたことないじゃん」
拓弥「うん、してないよ。でも、ほら、一応確認のためね。これから二人で暮らしていくための確認事項」
咲美「咲美の携帯とか、メールとかは見ちゃっていいよ」
拓弥「え? なんで?」
咲美「どうぞ見ちゃってください。って感じだよ」
拓弥「そうなの?」
咲美「私、ほら、オープンだから」
拓弥「オープンって・・いや、見ないよ、ボクは見ないから、そんなの」
咲美「見たければ見ていいよ。郵便物も開けていいよ」
拓弥「プライバシーってもんがあるじゃない」
咲美「プライバシーないよ」
拓弥「あるでしょ」
咲美「プライバシーいらない」
拓弥「なんで?」
咲美「全然、やましいとこないし」
拓弥「いや、やましいとこがあるから見るなって言ってんじゃないの」
咲美「え? じゃあ、なんで拓ちゃんは見るなって言ってるの?」
拓弥「だから、それはプライバシーの侵害だから」
咲美「なんか、私に見られてまずいものがあるんでしょ」
拓弥「ないよ、ないって」
咲美「じゃあ、見られても平気なはずでしょ」
拓弥「え、いや、違うよ」
咲美「私は平気だもん・・あ、拓ちゃんが嫌だっていうなら、別に見ないよ、そんなにほら、そーゆーとこであれこれ詮索するうざったい女にはなりたくないしさ」
拓弥「ん・・プライバシーなんだってば」
咲美「プライバシーなんでしょ」
拓弥「プライバシーだよ」
咲美「いらないでしょ」
拓弥「必要じゃない。プライバシーだよ」
咲美「え? プライバシーって日本語ではなんていうの?」
拓弥「プライバシー?」
咲美「日本語じゃないでしょ」
拓弥「日本語じゃないよ」
咲美「漢字じゃ書けないもんね、日本橋とか、勝ち鬨橋とか(ばしーと読む)」
拓弥「プライバシーは橋じゃないよ」
咲美「合羽橋(ばしー)」
拓弥「もういいって」
咲美「太鼓橋(ばしー)」
拓弥「プライバシーでしょ、プライバシーを日本語でいうと・・個人の自由を尊重する?」
咲美「メールを読んでいい自由」
拓弥「いやいや、それはちがう」
咲美「手紙を開けちゃっていい自由」
拓弥「いや、そんな自由はない。それを認めるとね、困るの。困る人が出てくるの・・そう、そうなの、困るんだよ」
咲美「なんで? やましくなければ困らないじゃない」
拓弥「やましくなくても、困るの。その・・なんていうの、なんか自分のね、領域っていうのがあってね、他人に入ってきて欲しくないのね」
咲美「他人じゃないよ、咲美だよ」
拓弥「うん、この場合の他人っていうのは、自分以外の人のことね」
咲美「咲美と拓弥ちゃんは一緒でしょ。これから一緒に生活するんだから」
拓弥「生活は一緒、でも、一緒ではない部分があるじゃない」
咲美「ないでしょう」
拓弥「いや、あるの」
咲美「秘密の部分?」
拓弥「秘密っていうのとは、ちょっとちがうの」
咲美「じゃあ、なに?」
拓弥「だから、それがプライバシーなんだってば」
咲美「だからプライバシーってどういう意味?」
拓弥「ん・・・んとね」
咲美「日本語で言って」
拓弥「プライバシーを日本語で言うとね」
咲美「なに? なに、なになに?」
拓弥「プライバシーはね」
咲美「うん」
拓弥「ほっといてくれってこと」
咲美「ほっといてくれ?」
拓弥「そう、こっちこないでって意味」
咲美「プライバシーの侵害?」
拓弥「そう、こっちこないでの侵害。だって咲美ちゃんはこっち来ちゃうからねえ」
咲美「なるほど」
拓弥「ね、わかったでしょ。だから、咲美ちゃんはプライバシーいらない人ね」
咲美「うん、いらない」
拓弥「でも、ボクはプライバシーが必要な人なの」
咲美「守るものが多いんだねえ」
拓弥「多いの、そうなの、物も捨てたくないし、プライバシーも侵害されたくないの。個人を尊重して欲しいの」
咲美「尊重してるじゃない・・今までも拓ちゃんが嫌がることは、なるべくしないようにしてきたじゃない」
拓弥「なるべくね・・」
咲美「そりゃ、拓ちゃんが嫌だって思っても、咲美の事も尊重してもらいたいじゃない」
拓弥「それはね、それはまあ、お互い様だからね」
咲美「拓ちゃんがこうしたいって、言ったら、咲美はついていくつもりだよ」
拓弥「うん」
咲美「拓ちゃんが安楽死したいっていうなら、安楽死させてあげるよ」
拓弥「なんで? なんで話は安楽死なの?」
咲美「だって、自分の生き死にを自分で決める。これがさ、なによりの本人の意思の尊重じゃない。もうこれ以上、生きてはいたくないから、延命装置をはずしてくれ・・って」
拓弥「まあ、そうだけど」
咲美「ね、尊重するから」
拓弥「なんか、それ・・うれしくないなあ」
咲美「拓ちゃんには生きていて欲しいけど、でも、拓ちゃんがどうしても死にたいっていうなら、それは・・咲美・・しょうがないって思うから」
拓弥「う、うん・・」
咲美「拓ちゃんは残された私がどんな気持ちなのか、とかよりも自分の意志なんだもんね、個人の尊重なんだもんね」
拓弥「ち、ちがうだろう」
咲美「咲美、かわいそう」
拓弥「なんで? なんでかわいそうなの? え、ちょっと待って、なんで俺は安楽死しなきゃなんないの?」
咲美「・・だって・・」
拓弥「なんで?」
咲美「ダメ! やっぱりダメ、拓ちゃんの意見なんか聞かない。そんな息苦しい世界はまっぴらごめんだ」
拓弥「なにい!」
咲美「咲美憲法、第一条、プライバシーはなし!」
拓弥「なんで?」
咲美「第二条、寝ている時は起こすべからず」
拓弥「おいおい」
暗転スタート。
咲美「第三条、洗濯物は干さずに乾燥機で乾かす。第四条、ライターは部屋のいたるところに置いておくこと。第五条、テレビはつけたまま寝ること。第六条、拓ちゃんはなるべく物を捨てる。第七条、人の寝言は聞かない」
暗転。
●各話タイトル『同棲のススメ』
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