●『第五十四話』
●『公園の隅』



『係長』

  公園の片隅。
  段ボールが幾つも積み重ねられている。
  車の行き来する音。
  やがて松下が通りかかる。
  通り過ぎかけたところで声。
声「まっつん?」
  松下、足を止める。
  あたりを見回してみるが・・
  そこには段ボールハウスしかない。
  しばし、それを見ているが、やがて、歩き出そうとする。
  と、再び声。
声「まっつんだろ?」
  振り返り、段ボールハウスを見る。
  すぐに、中嶌が顔を出す。
中嶌「久しぶり」
松下「うわっ!」
中嶌「よ!」
松下「な・・なんなんですか・・係長?」
中嶌「元気そうだね」
松下「・・中嶌係長ですか?」
中嶌「うん・・・よかった」
松下「なにが?」
中嶌「いや、もう忘れ去られちゃっててさ・・誰? とか言われたらどうしようかって思ったんだけど・・」
松下「誰? とは思いませんけど・・なに?」
中嶌「なに?って」
は松下「係長、なにやってるんですか、こんなところで」
中嶌「係長って・・もう係長じゃないよ・・係長って呼ばれると・・なんだか、背筋を伸ばさなきゃなんない感じがするからさ。係長と呼ばないでもらえるかな」
松下「係長・・は、今、なんなんですか?」
中嶌「ホームレス」
松下「え?」
中嶌「ホームレス中嶌」
松下「え?」
中嶌「いや、ちがうな」
松下「ちがう? ちがうって?」
中嶌「中嶌係長だったんだから、あれだ・・中嶌ホームレスだ」
松下「なに言ってるんですか?」
中嶌「ま、そういうわけよ」
松下「ど、どういうわけなんですか?」
中嶌「ひさしぶりだなあ」
松下「ええ・・そうですね・・一年・・にはなってないか・・」
中嶌「どう、痛風は?」
松下「ええ・・おかげさまで」
中嶌「あれ、やっぱりストレスだったの?」
松下「いや、それはどうだか・・」
中嶌「まっつんはあれだ、ストレスで痛風になって、それで俺が会社辞めたら治ったってことは、俺がまっつんのストレスだったのかな?」
松下「そんな! そんなことないっすよ」
中嶌「今、なにやってんの?」
松下「営業です」
中嶌「なんの?」
松下「いや、老人介護関係の?」
中嶌「え? 老人介護?」
松下「ええ・・それでお年寄りのお宅を訪問して・・」
中嶌「辞めたの? ソニーは?」
松下「いえ、ソニーが新たに始めたんですよ、老人介護の部門を」
中嶌「だって、おまえコンピューターエンターティメントだったんだろう?」
松下「ええ」
中嶌「プレステの」
松下「ええ・・中嶌さんが辞めてから、コンピューターエンターティメント部で、始めたんです」
中嶌「老人介護を?」
松下「プレステの技術を生かした、車椅子とか」
中嶌「ほんとに?」
松下「ホントです」
中嶌「それでそっちに飛ばされちゃったんの?」
松下「そうなんです」
中嶌「へえ」
松下「いや、僕のことよりですね、中嶌さんはなにをやってるんですか」
中嶌「(段ボールハウスを示し)なにって、見ての通り、ホームレスだよ」
松下「なんで?」
中嶌「なんでって、まっつんさ・・」
松下「はい」
中嶌「思い当たるふしはない?」
松下「僕ですか? え? 僕のせいですか?」
中嶌「ない?」
松下「・・なんですか、なにかしましたか、僕は?」
中嶌「ない?」
松下「ちょっとやめてくださいよ、そういうの・・ちょっとマジ勘弁してくださいよ」
中嶌「うそうそ、君じゃないよ」
松下「じゃあ、誰なんですか?」
中嶌「まあ、君のあずかり知らぬところだよ」
松下「・・気になるなあ」
中嶌「話聞く? 長い長い物語だよ」
松下「いえ・・いいですけど・・なんで・・こんな、段ボールで? 家は、家はどうしたんですか?」
中嶌「家? 建てたんだよ、自分で」
松下「いや、この・・この段ボールの家じゃなくって、元、住んでた家は?」
中嶌「引き払った・・一戸建てが欲しくなってね」
松下「一戸建てって」
中嶌「一戸建てだろう?」
松下「まあ・・それは・・そうとも言いますけどねえ」
中嶌「マイホームだ」
松下「ワンルームなんですか?」
中嶌「そうだね。ワンルームの一戸建て」
松下「わけわからん」
中嶌「まっつんはまだ賃貸?」
松下「そうですけど」
中嶌「家賃は?」
松下「十一万五千円」
中嶌「管理費は?」
松下「二万円です」
中嶌「高いな」
松下「いえ、でも、そんなもんですよ」
中嶌「俺なんかほら、持ち家だよ」
松下「係長・・」
中嶌「なんだよ・・(と、自分で気づいた)あ、係長っていわれて、反応しちゃった。まだ、どっかに係長時代の記憶が残ってるんだな」
松下「係長・・ソニーコンピューターエンターティメント辞めて・・やりたいことがあるって・・言ってたのは、これだったんですか?」
中嶌「そうねえ・・最終的にはこれになっちゃったってとこだね」
松下「今年の理系の大学生の就職希望、ナンバーワンなんですよ、ソニーは」
中嶌「知ってる、知ってる・・TVで見た」
松下「ナンバーワンを辞めて、ここですか?」
中嶌「なんかさ」
松下「はい」
中嶌「まっつんは・・っていうか松下君はさ」
松下「はい」
中嶌「さっきから聞いてると、ホームレスを差別しているよな」
松下「いえ、そんなことは、ありませんよ」
中嶌「まあ、座れよ」
松下「いえ・・僕は」
中嶌「どうして? 元上司の命令が聞けないのかよ」
松下「それは聞かなくても、いいでしょう、元、上司なんですから」
中嶌「はははは・・・何言ってんだよ」
松下「何言ってるって、おかしいのは係長の方ですよ」
中嶌「まっつん、兄弟はいたっけ?」
松下「兄が一人」
中嶌「お兄ちゃんってのはさ」
松下「はい」
中嶌「まっつんが幾つになっても、お兄ちゃんだろ」
松下「・・・それは、そうですけど」
中「だから、そういうことだよ」
松下「待って、ちょっと待って下さいよ・・兄はそら、いつまで経っても兄ですよ、でも、上司もいつまで経っても上司なんですか」
中嶌「いいから、まあ、座れってことだよ」
松下「いえ・・それは・・」
中嶌「どうして?」
松下「人の目もありますし」
中嶌「まあ、座れよ・・」
松下「いやですって・・しかし(と、あたりを見回し)これ、どう思われるんやろ」
中嶌「気にすんなよ」
松下「気にしますよ」
中嶌「誰もまっつんの事なんか気にしてないって・・誰も気にしない、ちっぽけな存在なんだよ」
松下「な、なんてこと言うんですか」
中嶌「まっつん、どうかね」
松下「なにが、どう? なんですか?」
中嶌「まっつんもさ、ソニー辞めなよ、俺みたいに」
松下「なんで?」
中嶌「無職になろうよ」
松下「なんでですか?」
中嶌「一緒にさあ・・」
松下「そんな、せっかく入ったソニーですよ。そんなの棒に振りたくはないですよ」
中嶌「いいじゃん、一緒に人生、棒に振ろうよ・・楽しいよ、毎日」
松下「楽しいかもしれないですけど、無職は無職でしょう」
中嶌「そう、無職、職がない、無職」
松下「仕事しないんですよね」
中嶌「無職だからね・・しなくていいんだよ。自分の好きなことだけやるの」
松下「そんなの世間が許しませんよ」
中嶌「え? だって俺、許されてるよ」
松下「え・・だって、仕事しなかったら生きていけないですよ」
中嶌「生きてるよ、俺」
松下「係長は参考にはなりませんよ」
中嶌「なんで? そんなに特殊?」
松下「こんな・・こんな生活している人は特殊ですよ。不自由じゃないですか、毎日」
中嶌「ちっとも・・時々、ほんとに時々バイトしたりするけど・・」
松下「えらいところで、えらい人に会っちゃったなあ・・」
中嶌「迷ってるでしょ、今」
松下「迷ってませんよ。あまりにも突然の事で、戸惑っているんですよ。動揺しているんですよ。あっけにとられてるんですよ」
中嶌「老人介護のセールスがやりたかったわけじゃないでしょう?」
松下「そりゃ、そうですけど・・」
中嶌「いや、びっくりしたなあ、老人介護の営業か・・一番向いてないよね」
松下「え・・ええ・・」
中嶌「売れてないでしょ・・」
松下「まあ・・そりゃあ・・あれですよ、成績はよくないですよ」
中嶌「逆ギレ体質だからね」
松下「逆ギレって、いつ僕が逆ギレしたんですか」
中嶌「田島ってまだいるの?」
松下「田島亜希子ですか」
中嶌「そうそう」
松下「ええ・・コンピューターエンターティメントにいますよ」
中嶌「あいつがまっつんのこと逆ギレブラックって呼んでたよ」
松下「な・・なんですか、逆ギレブラックって・・」
中嶌「老人介護ってなに扱ってるの?」
松下「車椅子とか」
中嶌「ソニーが?」
松下「さっき話したじゃないですか・・(と、その姿勢になって)こうやって」
中嶌「あ、そうか、そうか聞いたね」
松下「係長・・人の話聞かない癖、治らないんですか」
中嶌「いや、聞いてる、聞いてる」
松下「(怒る)聞いてなかったじゃないですか」
中嶌「お、逆ギレブラック」
松下「・・・・(なにも言えなくなる)」
松下「はははは・・うそうそ・・な、だからさ、一緒に無職になろうよ。逆ギレブラック、無職」
松下「・・わけわからん」
中嶌「そこまでこだわってるさ、まっつんにとってのソニーってなに?」
松下「え?」
中嶌「君にとってのソニーってなんなの?」
松下「え・・だって、理系の就職希望のナンバーワンなんですよ」
中嶌「うん・・それはさっき聞いた」
松下「それは聞いてたんだ」
中嶌「なんで理系のナンバーワンなの?」
松下「そりゃ・・あれですよ・・え・・・ええ・・」
中嶌「金?」
松下「もちろん、もちろんそれはありますよ」
中嶌「でも、ソニーが一番給料がいいってわけでもないんでしょう?」
松下「まあ、そりゃそうですけどね・・」
中嶌「金・・・金・・金・・金・・」
松下「いいじゃないですか、それだけじゃありませんよ、もちろん」
中嶌「じゃあ、あとはなに?」
松下「お金とですね・・・」
中嶌「保養所もあるしなあ・・」
松下「そうですよ・・ソニー辞めたら保養所も利用できないんですよ。福利厚生が・・」
中嶌「だって、ここで保養するからいいもん・・それで・・あとは・・肩書きか? ソニーの社員という肩書きか?」
松下「・・・・」
中嶌「そりゃあ、有名だもんな、ソニーは」
松下「・・正直、それもありますよ」
中嶌「ああ、俺もあった・・」
松下「そうですよね」
中嶌「今は・・ない」
松下「辞めるからですよ・・」
中嶌「だっていらないもん、ソニーの肩書き、ここにいたら・・むしろ邪魔かもしれないよ・・だいたいさあ、まっつんは松下って名前なんだからさ、ナショナルに行けばよかったんじゃないの? おかしいじゃない、ソニーの松下ですって」
松下「な、なんてこと言うんですか」
中嶌「それってあれでしょ、ホンダに勤めてる・・」
松下「ええ・・・」
中嶌「フェラーリですが・・って言ってるようなもんでしょ」
松下「・・係長・・なんか間違ってますけど」
中嶌「いいんだよ、言いたいことは伝わるだろ」
松下「ええ・・でも、ナショナルじゃなくて、ソニーがよかったんですよ」
中嶌「それはなんで?」
松下「いや、ナショナルって家電とかもやるじゃないですか、そうすると、冷蔵庫とかエアコンとかに行かされちゃうと、またちょっと違うなって・・」
中嶌「それでソニー」
松下「ええ・・それにほら、ソニーってアイボとか作ってるじゃないですか・・ああいうなんていうか、無駄なことをやらせてもらえる雰囲気というか、イメージがね・・」
中嶌「アイボか・・」
松下「まあ、そう思って入ってみたら、それは勝手にこっちが持ってるイメージとかでしかなかったんですけどね」
中嶌「アイボか・・」
松下「あれ、最初に社内の発表会で見た時、驚きましたよ・・あれ・・なにになるんですか・・」
中嶌「役に立たない物を開発しろという命令だったんだろ」
松下「それ聞いてびっくりしましたよ」
中嶌「それで車椅子?」
松下「いや、そこがちょっと・・計算違いというか・・」
中嶌「まっつんはなにがしたいの? ほんとは」
松下「・・僕ねえ、ホントはねえ、アイボあるじゃないですか」
中嶌「ああ・・」
松下「あの部署に行きたかったんですよ、ホントは・・入社の時にも言ったんですけど、人気高いじゃないですか、アイボって」
中嶌「みんなやりたがるよね」
松下「やりたいですよ・・ロボットを作るんですよ」
中嶌「犬のね」
松下「そう、犬のロボット・・それを仕事で、ですよ。お金もらってロボットを作るんですよ・・これはあれですよ・・男の子の夢じゃないですか、最高の夢じゃないですか(と、理解した)そうですよ、だからソニーは理系の人気ナンバーワン企業なんですよ」
中嶌「今、話していて気づいたんだろ」
松下「ええ・・そうですけど・・」
中嶌「なるほどねえ・・まっつんはどんなアイボが作りたかったの?」
松下「もっとリアルにしたいんですよ、アイボを」
中嶌「リアルに?」
松下「そう・・リアルアイボ。僕が今のアイボで一番不満なのは、餌食わないじゃないですか。バッテリーじゃないですか。バッテリーじゃダメなんですよ。実際にお皿にチップみたいなアイボの御飯を入れて、それを与えるわけですよ。アイボはそれを喜んで食べる。ね」
中嶌「おお・・」
松下「人間味があるでしょう、その方が」
中嶌「人間味のあるアイボ」
松下「違います・・人間味のある飼い主とアイボの関係ですよ・・人間味のあるアイボってなんですか、アイボは犬ですよ・・わけわからん」
中嶌「バッテリーじゃなくて・・」
松下「御飯をあげる」
中嶌「食べないと」
松下「死んじゃう」
中嶌「死んじゃうの?」
松下「食べなきゃ、死んじゃいますよ」
中嶌「それで終わり?」
松下「死んだら終わりです」
中嶌「高いなあ・・」
松下「でも、それだとクレームが来るんで、ネットにつないで、命をもらう」
中嶌「ああ・・」
松下「カスタマーからのクレームは怖いですからね・・まずそれがしたい。それで、それができたら」
中嶌「まだあるの?」
松下「ありますよ、やりたいことはいっぱいあるんですよ。それができたら、今度は匂いね」
中嶌「匂い?」
松下「匂いがわかるアイボにしたい。犬なんですから・・匂いをかいでうろうろする」
中嶌「それはなにが楽しいの?」
松下「よりリアル」
中嶌「うん・・なんのために?」
松下「それ聞いちゃダメ・・理由はないんです。そういうのが作りたいんです。開発者として・・」
中嶌「大変じゃない」
松下「大変だから挑戦のしがいがあるんです」
中嶌「『地上の星』が聞こえてきそうだな」
松下「僕も今、『ヘッドライト、テールライト』が流れました」
中嶌「そうか・・そういうことがしたいのか、まっつんは・・」
松下「まだあるんです」
中嶌「まだあるの?」
松下「ついでだから言わせてください。アイボって犬じゃないですか」
中嶌「ああ・・そうだね」
松下「猫はどうなんでしょう」
中嶌「アイボ猫」
松下「そうです。猫はすごいですよ。犬とちがってなつきませんから」
中嶌「なつかないんだ」
松下「なつきませんよ。そんな、なついたら猫じゃありませんからね。微妙に遠い。呼んでも来ません。向こうの方で一人で遊んでいます。それで、おなかがすいたら寄ってきます。それで御飯をやっておなかがいっぱいになったら、ぷいっとどっかまた行っちゃうんです」
中嶌「新しいねえ」
松下「媚びないんですよ。媚びないロボット」
中嶌「でもさあ、モノを作りたかったわけじゃない」
松下「作りたいですよ。今だって作りたいですよ・」
中嶌「作りたいけど・・」
松下「まあねえ・・しょうがないですよ・・ アイボのチームはソニーの中でもトップクラスですからねえ」
中嶌「希望者も多いからねえ」
松下「なかなか入れませんよ・・」
中嶌「まあ、そうだよね・・役に立たない物をみんながみんな好き勝手に作ってたら、世の中役に立たないモノだらけになっちゃうからねえ」
松下「昔、胸にいだいていた男の子の夢ってのは、みんながみんな叶うわけじゃないですからねえ」
中嶌「まあ、ねえ・・」
松下「ほら、よくあるじゃないですか、卒業文集とかの最後に」
中嶌「将来、なりたいもの、とか」
松下「そうそう・・」
中嶌「あったあった」
松下「係長ははなんて書いたんですか?」
中嶌「なんだったかな」
松下「まさか・・係長」
中嶌「なんだよ」
松下「将来なりたいものって・・」
中嶌「書かないよ、将来なりたいもの、ホームレスって。そんな奴はいないだろう」
松下「ですよね」
中嶌「あれ・・なんだろう? 俺はあの頃・・なにになりたかったんだろう」
松下「係長はプレステの売り上げを伸ばして、任天堂のスーファミを追い抜くことが人生の目標だって言ってたじゃないですか・・死ぬ気でやってやるって」
中嶌「まあねえ・・俺がソニーにいた頃はまだ、任天堂のファミコンが全盛だったからねえ・・ソニーが新しいハードを出すって言っても、みんなが無理だからやめとけって言っていた時代だったからねえ」
松下「そんな外野の意見をものともせずに、海外のゲームを買い付けてプレステ用に移植したり、サードパーティが参入しやすいようにツールを開発してあげたりとか、しゃかりきになってやってたじゃないですか。あのね僕、思うんですけど、今のプレステの天下は係長の尽力が大きいと思うんですよ」
中嶌「いやいや・・」
松下「いや、言わせてください。ホント言うとね、係長がいたからだと思うんですよ・・」
中嶌「まっつん、今の俺を褒めてもあげられるものなんて何もないよ」
松下「係長・・もうプレステに愛はないんですか?」
中嶌「愛・・愛か・・」
松下「あれだけプレステのために働いた人が・・」
中嶌「目標はね、任天堂を越えることだったんだよ」
松下「ええ・・」
中嶌「そしてさ、越えたんだ実際」
松下「ええ・・・」
中嶌「それでさ・・終わったんだよ・・俺は」
松下「なんで・・」
中嶌「それがさ・・俺の人生の目標だったから・・もっと時間がかかると思っていたからねえ」
松下「係長・・」
中嶌「無理だって思われていてさ・・それをやり遂げたらさ・・なんか急にどうでもよくなっちゃったんだ」
松下「・・そういうものなんですか?」
中嶌「うん・・まっつんさあ」
  と、中嶌、立ち上がり段ボールハウスの天井を開けて手を突っ込むと、プレステの本体を一台取りだした。
中嶌「これ・・今の、俺の枕」
松下「枕?」
中嶌「これを・・(と、頭にあててみせる)こうやって寝てるの」
松下「ちょっと・・ちょっと見せて下さい」
  と、松下、そのプレステを奪い取る。
松下「これ・・開発用のプレステじゃないですか・・ほら、ここんとこ普通はPS2って書いてあるのに、TESTって書いてある・・これ持ち出していいんですか?」
中嶌「うん・・まあ、ほら、俺、プレステに貢献したから、一台くらいいいかなって、ソニー辞める時にもらってきたんだ」
松下「枕にするために」
中嶌「そうねえ・・」
松下「わからん・・」
中嶌「夢といえば、夢だったんだよ・・打倒、任天堂がさ・・そして、その夢がかなっちゃったんだねえ、俺の場合・・」
松下「・・いい事じゃないですか」
中嶌「まっつんにはアイボがあるじゃない」
松下「いや・・それは無理ですって」
中嶌「無理だって言われたよ、俺だって・・でも、無理じゃなかった・・できた」
松下「はい・・」
中嶌「もしホントにダメだったらさ」
松下「はい・・」
中嶌「その時は、俺がまつんの家を建ててやるよ」
松下「(と、段ボールハウスを示し)これですか?」
中嶌「そう・・」
松下「ワンルームの」
中嶌「一戸建て」
松下「・・はい。その時は・・よろしくお願いします」
中嶌「がんばれよ」
松下「はい・・」
中嶌「引き留めて悪かったな」
松下「いえ、とんでもないです」
中嶌「じゃあな・・」
松下「係長・・」
中嶌「うん?」
松下「ありがとうございます。失礼します」
  と、一礼して立ち去る。
  が、すぐに踵を返し。
松下「・・諦めません」
  と、言って歩き去る。
  開発用のプレステを抱えたままの中嶌。
中嶌「もう係長じゃないってば・・」
  暗転。

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