第36話  『プチプチプチトマト』



  イメクラの待合室。
  東スポを広げて読んでいる龍之介。
  そこにタバコを持ってやってくる鷲尾。
鷲尾「すいません」
  と、タバコを龍之介に差し出し。
鷲尾「これで・・」
龍之介「あ、どうも、どうも、ありがとね」
  鷲尾、タバコと一緒に五百円玉を差し出している。
龍之介「あれ?」
鷲尾「あ、お金はいいす」
龍之介「いいよ、そんな」
鷲尾「これは店からのサービスってことで」
龍之介「あ、そう?」
鷲尾「はい・・いつもご贔屓にしていただいてますから」
龍之介「そう・・」
鷲尾「はい」
龍之介「悪いね」
鷲尾「いえいえ、そんな・・」
  龍之介、タバコの包装を剥いていく。
鷲尾「もうちょっと、お待ちください」
龍之介「あ、大丈夫、大丈夫」
鷲尾「すいません」
龍之介「繁盛してて、いいじゃない」
鷲尾「いや、珍しいんですよ、こんなに・・」
龍之介「給料日過ぎってわけでもないのにねえ」
鷲尾「そうですよね・・でも、ボーナスの時期の時も店長が、忙しくなるから覚悟しとけって言ってたんですけど・・全然でしたから」
龍之介「ああ・・ダメだった」
鷲尾「ええ・・」
龍之介「不況だからね」
鷲尾「不況ですねえ」
龍之介「やっぱりあれ、風俗とかにも影響するんだ」
鷲尾「するみたいですねえ」
龍之介「大変だねえ」
鷲尾「ですねえ」
龍之介「でも、どっかに金はあるんじゃないの?」
鷲尾「そうですかねえ」
龍之介「あるだろ・・こんな不況でもさ、どっかに・・」
鷲尾「(わりと真剣に)どこなんですか、それは」
龍之介「どこかなあ・・」
鷲尾「どこですか」
龍之介「ん・・」
鷲尾「証券も商社もダメですからねえ・・通信ですかねえ」
龍之介「え?」
鷲尾「携帯・・すごいじゃないですか・・まあ、いつまで続くかわかんない業種ですけどねえ・・」
  と、大きな溜息をつく。
龍之介「・・証券? 商社? そういうところに勤めてる人が来るの? このイメクラ?」
鷲尾「あ、いや・・自分、就活してたんですよ・・」
龍之介「シューカツ?」
鷲尾「就活」
龍之介「シューカツって?」
鷲尾「就職活動・・ですよ」
龍之介「あ、そう・・え、今は、ここは?」
鷲尾「バイトっす」
龍之介「ああ・・そう・・へえ・・え? 今、一月でしょ」
鷲尾「はい?」
龍之介「内定は?」
鷲尾「(首を横に振った)・・」
龍之介「ああ、そう・・」
鷲尾「三十三戦、三十三敗ですよ」
龍之介「ああ・・そう・・大変だ」
鷲尾「大変ですよ」
龍之介「どこを希望してたの?」
鷲尾「金融か、証券か」
龍之介「入れないでしょ」
鷲尾「ええ、ダメでした」
龍之介「え、なんで? なんで金融か証券なの?」
鷲尾「いや、優遇されるって聞いたんですよ」
龍之介「金融と証券に優遇?」
鷲尾「自分、理系なんっすよ」
龍之介「うん」
鷲尾「理系って今、金融とかで優遇されるんですよ」
龍之介「へえ、そうなんだ」
鷲尾「文系の学生よりも、理系の学生の方が大学全体で絶対数が少ないっすから」
龍之介「まあ、そうだけど・・なんで優遇されるの? パソコンとか使えるから?」
鷲尾「いや、パソコンは最近、文系も理系も関係ないっすから」
龍之介「ああ、そうか」
鷲尾「文系よりも理系の方が勉強はしてますから。文系で経済学部行ってても、試験は模解でなんとかするって奴ばっかっすから」
龍之介「モカイ」
鷲尾「・・模範解答」
龍之介「ああ、模範解答ね。ごめん・・俺、高卒だから、そういう単語がわかんないんだ・・ごめんね」
鷲尾「いやいや、とんでもないっすよ」
龍之介「いやあ、模解ね」
鷲尾「あと過去問」
龍之介「カコモン・・」
鷲尾「過去問ってのは・・」
龍之介「待って・・それ当てる・・カコモン・・カコ・・過去の問題」
鷲尾「そうです・・去年の問題とか、ここ数年の問題とかを先輩から譲り受けて、それさえ憶えていけば、なんとかなったりするんです」
龍之介「でも、勉強しててもさ、ちがうんじゃないの、勉強の、してることが・・中身がさ」
鷲尾「経済学部行ってても、確率微分方程式とか知らないっすよ、みんな。統計解析も分散や標準偏差とか検定もねえ。だいたい、需要曲線−供給曲線しか知らないし、AS-AD、IS-LM分析もねえ、わかってないっすから」
龍之介「え? え? ちょっと待って・・大学さあ・・どこ?」
鷲尾「いや、どこでもいいじゃないっすか」
龍之介「いや、聞かせて・・」
鷲尾「いいっすよ、そんなの」
龍之介「じゃあ、さあ・・俺、当てていい?」
鷲尾「いや、そんな大したことないっすよ」
龍之介「いいや・・大したことあるって」
鷲尾「そんなことないっすよ」
龍之介「ホントにねえ、大したことない奴が自分で、大したことないって言う時と、なんか違うもん。なんか余裕があるんだよな、大したことないって言いながらも・・」
鷲尾「・・そうっすか?」
龍之介「うん・・イエス、ノーでいいから答えて」
鷲尾「え・・言うんすか?」
龍之介「そうだよ、言うんすよ! いい?」
鷲尾「(いやいやながらも)はい」
龍之介「東大」
鷲尾「ん・・」
龍之介「イエスかノーか」
鷲尾「ん・・・」
龍之介「東大の理系なんでしょ」
鷲尾「・・なんでわかったんですか?」
龍之介「え! イエスなの?」
鷲尾「イエスっす」
龍之介「そうなの?」
鷲尾「そうっす」
龍之介「ああ、そう」
鷲尾「そうっす」
龍之介「ああ・・そう」
鷲尾「そうっす・・」
龍之介「理系っていうと理学部?」
鷲尾「そうっす」
龍之介「当たってる?」
鷲尾「あってるっす」
龍之介「理学部の・・なんとか学科ってのがあるでしょ。その先がまた、いろんな専門に分かれてんでしょ」
鷲尾「自分は生化っす」
龍之介「セイカ」
鷲尾「生化っす」
龍之介「あおもの、やさい?」
鷲尾「生物化学」
龍之介「生物化学を略して、生化」
鷲尾「そうっす」
龍之介「なんか、いろいろ勉強になるなあ」
鷲尾「そうっすか?」
龍之介「就活、模解・・生化・・ね。生化ってのは、どんなことをするの?」
鷲尾「バイオテクノロジーって聞いたこと、ありますか?」
龍之介「(やった!)ある! ある! バイオテクノロジーね。ああ、そうなんだ、へえ、バイオテクノロジーをやってる・・バイオ」
鷲尾「バイオ」
龍之介「俺、持ってるよ」
鷲尾「なにを、ですか?」
龍之介「バイオ・・コンピューターの、バイオ」
鷲尾「あ、ああ・・」
龍之介「デスクトップの、バイオ」
鷲尾「ああ・・買うと一年で壊れるっていう、あの、ソニーの」
龍之介「え、そうなの?」
鷲尾「そうっすよ」
龍之介「ああ・・そうなんだ・・」
鷲尾「バイオ、バイオっていっても、自分は遺伝子でしたから」
龍之介「遺伝子・・ね」
鷲尾「そうっす」
龍之介「卒論とかは、どうなの? 書いたの?」
鷲尾「ええ・・」
龍之介「やっぱ遺伝子について?」
鷲尾「ですね・・『アフリカツメガエルの卵の抽出液はDNAの複製開始、ならびにその制御機構の解明に適していることについて』っていうので、ちょっと書いたんですけど」
龍之介「ああ・・ねえ・・」
鷲尾「ええ・・」
龍之介「ちょっと書いたんだ」
鷲尾「百枚くらいですけど」
龍之介「遺伝子だ」
鷲尾「ええ」
龍之介「DNAだ」
鷲尾「ええ」
龍之介「クローン人間とか」
鷲尾「いや、クローン人間はちょっと」
龍之介「そうだよな、そうそう、クローン人間はちょっとな」
鷲尾「自分はトマトをやってました」
龍之介「トマトのクローン?」
鷲尾「クローンっていうか、遺伝子操作ですね」
龍之介「へえ・・」
鷲尾「プチトマトをちょっといじって、トマトの実が従来の二百七十パーセント付くっていうのを栽培しましたね」
龍之介「あ、そう・・普通は十個なるのに」
鷲尾「二十七個なる」
龍之介「それは・・人類のためになる仕事だね」
鷲尾「でも・・二百七十パーセント実が生るんですけど、おかげで一つ一つのトマトの大きさがちょっと小さくなっちゃったんですよ。プチトマトがプチプチプチトマトって感じなんっすよ。研究室のみんなに笑われました」
龍之介「ああ・・ああ・・ねえ、それは思わず笑っちゃうよね」
鷲尾「ええ・・失敗っすね」
龍之介「失敗なの、それ」
鷲尾「自分的には、ですけど」
龍之介「研究室の友達もひどいねえ・・あ、あのさあ、友達ってなにやってるの?」
鷲尾「友達っすか?」
龍之介「そう、キミの友達」
鷲尾「鳶とか、自動車工とか」
龍之介「鳶? 自動車工?」
鷲尾「ええ・・あとは、ホストやってる奴なんかも仲いいです」
龍之介「東大で?」
鷲尾「あ、いや、違いますよ、田舎の友達っすよ」
龍之介「あ、ああ、そうだよね、ああ・・びっくりした・・東大の友達って意味だったんですけどね」
鷲尾「あ、すいません・・そうっすよね。でも、大学にあんま友達いないっすよ。だから、友達っていわれると、田舎の友達のことだって思っちゃって」
龍之介「あ、ああ・・東大には友達がいないんだ」
鷲尾「自分、こんな感じっすから、浮いちゃうんですよね、なんとなく」
龍之介「わかる、うん、わかるよ」
鷲尾「研究室の仲間はやっぱり友達って感じじゃないっすよ」
龍之介「それは仲間、なんだ」
鷲尾「あ・・一人いますけど、理学部じゃないんですよ。医学部の奴なんですけど、制ガン剤のタキソイドの研究してる・・」
龍之介「制ガン剤ってのは、なんの略なの?」
鷲尾「いや、制ガン剤ってのは制ガン剤です・・ガンを押さえる」
龍之介「ああ・・ガンね。肺ガンとか胃ガンとかの」
鷲尾「ええ・・それを押さえる」
龍之介「それを友達がやってる」
鷲尾「そうっす」
龍之介「キミはトマト」
鷲尾「そうっす」
龍之介「小振りなトマト、プチプチプチトマト」
鷲尾「就職にもなんにも役には立ちませんでしたけどね」
龍之介「え・・それがわかんないんだよな・・なんで? バイオテクノロジーでしょ。遺伝子でしょ。今さ、注目されている業種なんじゃないの?」
鷲尾「ああ・・まあ、確かにいろんな業種がわけもわからず参入はしてますけどねえ・・」
龍之介「でしょ、そうでしょ。だったらさ、あるんじゃないの? 就職先くらい」
鷲尾「いやあ、でも・・」
龍之介「ダメかね」
鷲尾「ええ」
龍之介「ダメなんかね、遺伝子は」
鷲尾「ダメっすね」
龍之介「ダメっすか」
鷲尾「遺伝子ビジネスは・・まだビジネスモデルとしては浅いですから。みんなまだ単なる投機の対象としてしか見てないんですよ」
龍之介「ああ、そう」
鷲尾「今年も史上最低の内定率なんですよ」
龍之介「今年もってことは、ここんとこ毎年、最低記録が塗り替えられてるってことなの?」
鷲尾「そうっす」
龍之介「でも、東大でしょ、なんかあるでしょ、別にさあ、金融とか証券とかじゃなくても、優遇されるんじゃないの?」
鷲尾「(手を左右に振った)・・」
龍之介「ダメ?」
鷲尾「ダメっす。いや、東大って別にねえ、入ってみたら大したことはないなあ、って思ってたんですよ」
龍之介「いやいやいや・・ご謙遜を」
鷲尾「いや、ほんとっすから。ほんとに、普通じゃん別に、って思ってたんですよ。でも、ほら、東大生だっていうと、みんなそれまでの態度と違ってきちゃうんですよね。だから、自分でもどっかで、俺、東大だからさあ、って思ってたんですよ」
龍之介「いいんじゃないの? 東大なんだからさ、嘘はついてないんだからさ」
鷲尾「いや、それはまあ、大学にいる間だけのことでしたね、こうやって、いざ社会と関わりを持とうとすると、もう、尊敬されてんのか、差別されてんのかわかんないっすから」
龍之介「差別?って、どゆこと?」
鷲尾「いや、あんまり内定が取れないんで、ちょっと会社のランク落とすじゃないですか」
龍之介「ああ、徐々にね」
鷲尾「そしたら、冷やかしに来たとしか受け取ってくんないんすよ」
龍之介「向こうは冗談で受けに来てると思ってんだ」
鷲尾「こっちは真剣なのに・・ですよ」
龍之介「ああ・・それは、なんつーかつらいやね」
鷲尾「グループ面接があったんですよ」
龍之介「うん、五人ぐらい同時に面接するやつでしょ」
鷲尾「そうっす。それで面接の最中にですね。面接の最中にですよ。携帯鳴らしてる奴がいるんですよ」
龍之介「着メロが鳴ってるんだ」
鷲尾「面接の最中っすよ」
龍之介「あるんだろうなあ、今は」
鷲尾「君が我が社を志望した動機は? とか聞かれて、御社の経営方針に興味を持ち、必ずや今後伸びていく業種だと思い(と、着メロを口ずさむ)ぴーひゃらぴー、ちょっとすみません、今、ちょっと忙しいからまた後で、だって」
龍之介「そりゃ受からんだろう」
鷲尾「って思うじゃないですか」
龍之介「え? 受かったの?」
鷲尾「ちょっと、面接待ちの時間にメールのアドレス交換しちゃったんですよ。そしたら、一週間後に、『内定来た、就活終了。東大君はどうでしたか?』ってメールが来たんですよ」
龍之介「受かるの? それで受かるの?」
鷲尾「俺が落ちて、なんでそいつが受かるんですか? 俺が東大だから、真剣だって思われてないんですよ」
龍之介「そうか、そういうことか・・」
鷲尾「それ、五人のグループ面接だったんですけど、最初、四人だったんですよ。一人遅れてて、それで面接の最中にようやく来たんですけど、そいつは開口一番、会社案内に載っている地図がわかりづらかったんで、遅れました」
龍之介「あ、人のせいにしてるんだ、自分の遅刻を」
鷲尾「そうなんっすよ。それで、もっとムカつくのが」
龍之介「そいつも内定だ」
鷲尾「そうなんですよ」
龍之介「なんて会社だ」
鷲尾「まあ、そこはね、内定もらわなくてもよかったかなって気はしてますけどね」
龍之介「それはそうだよ、そんなとこすぐに潰れちゃうよ」
鷲尾「たいてい最後に言われるんですよ。うちなんかよりもっといいところがあるんじゃないの?って」
龍之介「うん、そう言っちゃうのもわかるんだけどねえ」
鷲尾「もう、こうなったら院に進んで、二十年がかりで教授になるしか道はないかもしれないっすよ」
龍之介「教授? 東大の教授?」
鷲尾「そうっす」
龍之介「今、イメクラのボーイやってる君がねえ」
鷲尾「もう、それしか道がないっすよ、ほんとに」
龍之介「残された道は東大の大学教授になるしかないんだ」
鷲尾「それもなあ・・」
龍之介「え? でも、遺伝子の研究がやりたいんじゃないの? え? ちょっと待って、そもそもなんでここでバイトしてるの?」
鷲尾「働くなら風俗でしょう、やっぱり」
龍之介「なんで?」
鷲尾「だって、おもしろい人にいっぱい会えますしね」
龍之介「欲望むき出しのね」
鷲尾「おもしろいじゃないですか、みんなシンプルだし・・自分、人間、好きなんっすよ」
龍之介「あ、そうなんだ」
鷲尾「興味があるっていうか、尽きないっていうか・・おもしろい人がいっぱいいて、いったいこの人達は、なんでこうなっちゃったんだろう・・って思うと、道歩いてても、笑っちゃって・・あの、マザーグースって知ってますか?」
龍之介「え? イギリスの詩の?」
鷲尾「そうっす。ガキの頃に読んだことあるんっすけど、あれにあるんですよ、男の子はなにでできてるかってのが」
龍之介「なにでできてるの?」
鷲尾「男の子は、カエルとかたつむりと犬のしっぽでできてる、って書いてあったんっす」
龍之介「へえ」
鷲尾「それで女の子は、砂糖菓子とスパイスとそれに素敵なものばかりでできてる、って」
龍之介「あ、そう・・」
鷲尾「そう言われてみると、人間を作ってるものってそんなものかもしれないなって、その時は思ったんっすよ」
龍之介「世の中にはおもしろい人たちがいっぱいいて、そいつらは・・」
鷲尾「カエルとかたつむりと犬のしっぽでできてるんですよ」
龍之介「かわいいとこあるね、そんなことに感心するなんて」
鷲尾「いいなあ、って思ったんですよ、そんなふうに人の中身の事を考えられるなんて・・でも、いざ、自分で考えた時に、そんなかっちょいい言葉がまったく浮かんでこないじゃないっすか? 自分にできることは、やっぱり地道に人間ってなにでできてるかってことを解明していくことなんだなって思ったんすよ」
龍之介「ちょっと待って、ちょっと待って。それで? それで遺伝子なの?」
鷲尾「そうっす。世の中にはこんなにおもしろい人たちがいっぱいいて、人に興味があって、その人達はいったいなにでできてるんだろうって、どうしてこうなっちゃったんだろうって思った時に」
龍之介「遺伝子を解き明かそうって思っちゃったんだ」
鷲尾「そうっす・・」
龍之介「へえ・・またとんでもないところに行っちゃったんだねえ・・それで、遺伝子研究してわかったの? おもしろい人達の中身って」
鷲尾「いやあ・・」
龍之介「まだまだって感じ?」
鷲尾「思ったより、奥が深いってとこですかね」
龍之介「ああ・・そう・・そうかね」
  と、鷲尾の傍らの内線電話が鳴る。
  鷲尾、すぐに取り。
鷲尾「はい、はい・・わっかりました」
  そして、受話器を置き、龍之介に
鷲尾「三番プレイルーム、空きました」
龍之介「あ、そう」
  と、立ち上がる。
龍之介「新しいよね、これ」
鷲尾「はい?」
龍之介「このコース・・」
鷲尾「恋人気分コース・・ええ、最近、始めたっす」
龍之介「あ、そだ・・」
  と、龍之介、立ち去ろうとして足を止め。
龍之介「タバコ、ありがとな」
鷲尾「とんでもないっす」
龍之介「じゃ、また」
鷲尾「はい、ごゆっくりどうぞ」
  鷲尾、立ち上がって深々と頭を下げた。
  龍之介、三番プレイルームへ。
  鷲尾、しばらくして顔を上げた。
  暗転スタート。
  椅子に再び腰掛けて。
  暗転。