第90話  『合コンに行こう!』
  渋谷の街角。
  拓弥とカンが立っていて、道行く人を眺めている。
  雑踏の音がやや大きめに入る。
拓弥「さすがに金曜の夜は人の量が違うね」
カン「あ、あれがそうじゃないかな」
拓弥「え? どれどれ?」
カン「あのほら・・」
  と、指さしたカンに。
拓弥「ダメだよカンちゃん、指さしちゃ」
カン「あ、あ、そうかな」
拓弥「で、どれ?」
カン「(目で追って)あ・・ああ・・違うみたい・・あ、でも、よく見りゃ合コンに行く感じじゃないな」
拓弥「なに、カンちゃん、合コンに行く感じとか、感じじゃないとかわかるの?」
カン「いや、あんなかわいい子は合コンには来ないでしょう」
拓弥「わかんないよ、そんなの」
カン「え? そうなの?」
拓弥「わかんないよお、そんなの」
カン「え・・でも、どういう人が来るのか・・全然想像つかない・・だいたいどういう人がくるものなの?」
拓弥「わかんないよぉ」
カン「え、拓ちゃんは合コンって、何度も行ったことあるんじゃないの」
拓弥「あるよ」
カン「だったらわかるんじゃないの?」
拓弥「わかんないよぉ」
カン「わかんないの?」
拓弥「わかんないよぉ、そればっかりは」
カン「わかんないのか」
拓弥「わっかんないねぇ・・だから、おもしろいんじゃん、合コンって」
カン「かわいい子も来るのかなあ」
拓弥「来るときもある。でも、かわいい子だから話ていておもしろいかっていうとね」
カン「それはまたちょっと違うんだ」
拓弥「違うね、そのへんの見極めはもう、数こなすしかない」
カン「うわ、道のりは遠い。あ、そうそう、合コンって、本当に男女、男、女って交互に座っていくもんなの?」
拓弥「そうだよ、それは基本。でもね、あ、これはって初対面で思うじゃない、この子、好みだ、この子と話したいって。でも、だからってその子の隣にいきなりすわるのはよろしくないね」
カン「よろしくないんだ」
拓弥「合コンはね、最初に誰の隣に座るか、ってので勝負は決まるからね。目当ての子は後回し、途中でね席替えがあるからね、適当に酒が回った頃に隣に座る方が賢明」
カン「ああ、なるほどね、それで酔った彼女を介抱してあげる」
拓弥「あ、ダメ、それはダメ、そんなのダメ、合コンでね、女の子を酔わすのはダメ」
カン「え? え? そうなの?」
拓弥「酔わせるんじゃなくて、自分が酔うの、っていうか、もっと正確に言うと、自分がね、男の方が酔ったふりをする」
カン「え? え? 酔ったふり?」
拓弥「そう、それでね、俺、ちょっと酔ったから言うけどさあ、とかそういうのを使う」
カン「なるほど」
拓弥「女の子を酔わしてもね、ゲロ吐いたり、家に帰れなくなったりって、面倒なだけでひとつもいいことはないから。とにかく、自分が酔ったふりをする」
カン「なるほどねえ」
拓弥「だいたいさあ、カンちゃん、合コン行こうよって誘った時に、ぱっと思ったことってあれでしょ、モテなくてぱっとしない男と女がさ、居酒屋でさ、くっだらない冗談言ってさ、マッチ棒クイズとかやったり、手相見たり、王様ゲームしたりとか、っていうイメージだったでしょう?」
カン「うん、うーん、そうね、ちょっとそんなことを思ったかも」
拓弥「違うんだよ、合コンってのはさ、まあ確かにそんなに大げさに考える物かっていうとそうでもないよ、でもね、たかが合コン、されど合コン、あなどれないわけよ」
カン「そういうこと、最初に聞いておいてよかったよ」
拓弥「そうでしょ、そうざんしょ! 合コンの基本ってね、物の本とか読むとさ、まず女の子の名前はできるだけ早く必死に覚えろとかね、電話番号はその場で聞けとか、つまらないと思っても、その合コンが次の合コンに繋がると思ってがんばれとかね」
カン「うん、うん、うん・・・」
拓弥「わざと遅れてくる女の子ってのがいるんだけどさ」
カン「え、わざと?」
拓弥「わざと! わざと遅れてくるの」
カン「なんで? なんのために?」
拓弥「一通り話しとかして、適当に酔っぱらってきたりするわけじゃない。段々、その場にいる女の子に慣れてくるでしょう」
カン「ああ、まあ、そうだね」
拓弥「そこにさ、ニューキャラクターがさ、遅くなってすみませーん、とか言って登場してくると、極普通の女の子だとしても、ものすごく新鮮に見えたりするんだよ、ね。もしも最初からその子がいたとしたら、スルーしちゃうかもしれないけど、なんたって印象が違うからね、遅れてきた子がちやほやされる可能性は高い。でも、ここで忘れてはならないのは」
カン「忘れてはならない事!」
拓弥「それは多分に錯覚が混じっているということ」
カン「なるほどね」
拓弥「あとはねえ、その場にいる男の悪口は言うなとかさ、いろいろあるよ、でも、合コンの本質はそんなところにはないわけよ」
カン「なるほどねえ」
拓弥「自己紹介とか考えてきた?」
カン「自己紹介」
拓弥「自己紹介で決まるからね」
カン「え、だってさっき、誰の隣に座るかで決まるって言ったじゃん」
拓弥「うん、それでも決まるし、自己紹介でもさらに決まる」
カン「さらに決まる?」
拓弥「大事なのはね、とにかく話題が広がる話題、これね」
カン「話題が広がる話題・・って例えばどういうの?」
拓弥「ん、例えば趣味、カンちゃん趣味は?」
カン「ん・・映画鑑賞」
拓弥「あーダメ!」
カン「え? なんで?」
拓弥「話題がね、広がりそうで広がらないんだよな」
カン「普通でしょう、趣味、映画鑑賞って」
拓弥「それでさ、どんな映画が好きって言って」
カン「泣ける映画、ん、たとえば『ライフイズビューティフル』とか『ニューシネマパラダイス』とか」
拓弥「ふーん」
カン「そうなんだよね、あとねえ・・」
拓弥「いや、もういい、そこでいい、それ以上喋らなくてもいい、いいっていうか、もうそれ以上の会話は無駄」
カン「まだあるのに・・」
拓弥「映画の話って合コンには向かないんだよね、実践向きじゃないっていうか」
カン「ん・・じゃあ、どんな話題だったらいいの?」
拓弥「だいたい、普通の人ってさ、映画なんてそんな見ないんだよね、すごく有名な映画でも、知ってはいるけど見てないとかさ」
カン「ああ、それは、そうかもね」
拓弥「なるべく誰でも入ってこれる、敷居が低く、間口の広い話題、これが合コンでは一番!」
カン「敷居が低く間口の広い話題? だってさあ、本当の趣味はゲームなんだけど、それはまずいかなって思ってさ」
拓弥「まずいね、合コン行って趣味はゲームだって言ったら自殺行為だよ」
カン「わかってる、それぐらいは俺もわかってる」
拓弥「ゲームはね、女の子の方から暇な時PS2とかやってるかなって、言われて初めて言っていいことなんだよ。場の雰囲気を読む、合コンに必要なのはもうこれにつきるね」
カン「いや、いやいや、それはわかってるんだ、わかってるから映画にしたんだけど」
拓弥「映画だったらテレビの方がいいね」
カン「テレビか」「
拓弥「テレビはさ、なにげにみんな見てるし、テーブルについた誰かは、見てるもんだからさ」
カン「『スマスマ』とか?」
拓弥「ん、惜しいね」
カン「惜しい?」
拓弥「確かに『スマスマ』はみんな見てるよ」
カン「見てるでしょ、見てるよね」
拓弥「見てるけど・・話題の広がりに乏しい。『スマスマ』なら『あいのり』の方がいい、『エンタ』とかね」
カン「そうか、そういうものなのか・・じゃあ『タモリ倶楽部』とか」
拓弥「ん・・『タモリ倶楽部』か」
カン「『タモリ倶楽部』みんな見てるでしょう」
拓弥「見てるけど、ぎりぎりダメ!」
カン「ダメ? 『タモリ倶楽部』ダメか」
拓弥「話が続かないし、繋がらないから」
カン「そ、そうかなあ」
拓弥「最近、『タモリ倶楽部』ってタモさんをみんなで接待して、タモさんにいかに楽しんでもらえるかっていう番組だからさ。最近、『タモリ倶楽部』見てる? って言って、見てる見てるってたとえ言われたとしてもよ、電車の回がよかったなとか、特殊車両の話がよかったなとか、吸盤の会社がぁとか、豆腐屋でみんなで飲むのがよかったぁとかそういうのばっかりでしょう」
カン「よく見てるね、拓ちゃんは」
拓弥「見てるよ、見てますよ、あれ見ないといつが金曜日なのか、はっきりしないもん」
カン「『タモリ倶楽部』はダメか」
拓弥「難しいよ、誰もが食いついてくる番組でなおかつ、話題が広がる番組、ね。今だったらそうね、『鶴の間』かな」
カン「『鶴の間』この前、ちょっと見た、ウドちゃんの回!」
拓弥「いいね『鶴の間』。『鶴の間』はいいよ。話題が盛り上がる」
カン「みんなそんなに見てるの? 『鶴の間』って」
拓弥「いやいやいや、見る見ないに関わらずってところが、合コン向け。いや、見てればさ、あ、あたしも見てる見てる、ってことになって、あ、あれさあ、すごいいいよね、って盛り上がれるし、見てなかったら、見てないで、え? なにそれってことになるでしょう? え、見てないの、見なよ、見てみて、すごいいいから、ってなるよね。そうするとさ、え、どういうの? ってことになるじゃない、いや、あの『鶴の間』っていうのはね、鶴瓶さんが毎回、漫才やるんだけどね、相方が誰か、直前まで知らないの。ステージの奥にしきりがあって、鶴瓶さんはそこに出てきて初めて相方が誰なのかを知って、そのまま、即興で漫才をしなきゃなないんだよ。って、説明するじゃない、それで、あ、それ、おもしろそうっていうことになったら、ね。僕が見た回はね、相手が小朝さんだったんだよ。小朝さんだよ、小朝さん、落語家っていうか噺家のね、小朝さんはね、実はあんだけキャリアがあるのに、漫才やるのって初めてだったんだよ」
カン「へー、そうなんだ」
拓弥「そう、それ、そのリアクション、小朝さん、漫才やるの初めてだったんだよ、って言うと女の子がみんな、今のカンちゃんみたいにへーって言うわけじゃない」
カン「あ、言う、言う、言うね」
拓弥「それでさ、小朝さん、なにやったと思う?」
カン「え、なんだろ、小朝さんで漫才でしょう」
拓弥「すごいんだよ。小朝師匠、ハンズ行ってさ、聴診器買ってきて、それ首からぶら下げて、今日はお医者さんと患者さんの漫才をやりますって」
カン「なんだそりゃ」
拓弥「しかも、その『鶴の間』ってのはさ、その相方になる人って、若手からベテランまで関係なく出るんだよね。小朝師匠も出るし、友近も出るし、三宅祐司さんと鶴瓶さんの漫才とかね、すごいでしょう? って言うと、あ、ちょっとそれ見てみたいかもって思うでしょう? でも、この前はついにすごい人が出たんだよ」
カン「え? 誰、誰」
拓弥「思わず聞きたくなるでしょう」
カン「ん、なるね、それはなるねえ」
拓弥「ヒントはねえ、明石家」
カン「え? さんまさん! さんまさんが出たの?」
拓弥「さんまさんが出て、鶴瓶さんと漫才したの」
カン「それってすごくない?」
拓弥「そう、そう、そう、そういう反応になるわけでしょう」
カン「なるね、え、鶴瓶さんとさんまさんでどういう漫才したんだろう」
拓弥「そうするとね、このさあ『鶴の間』の話している間に、小朝師匠やら、友近やら、三宅祐司やら、よいこの濱口とか、さんまさんやらって、いろんな人がでてくるわけじゃない。そのうちの誰かにテーブルについている女の子がひっかかってくれれば、そっち方面に話がいくでしょう。話題が広がっていくでしょう。ああ、友近ね、友近好きとか、友近は嫌い、ってことでもなんでもいいんだけど、そうすると、友近はねえ、ってことになるわけじゃない。だけども、だけどもだよ、そこでね、例えば、好きな芸能人は誰ですか、って話振っちゃうと、もう話って広がらなくなるんだよ」
カン「え? そうなの? そういうことなの」
拓弥「だって、好きな芸能人ですか? って言って、えっと松島奈々子とか、って言われるでしょ。へーって思うけど、それってどうリアクションしていいかわかんないでしょう。あ、ああ、松島奈々子が好きなんだぁ、ってそこで話は終わっちゃうじゃない」
カン「松島奈々子はダメなんだ」
拓弥「そうね、松島奈々子は合コン向きではない」
カン「合コン向きではない・・ってそんな基準で、好きな芸能人って考えたことなかったから」
拓弥「とにかく、合コンって相手がなにが好きで、なにに詳しくて、どういう常識で生きているのかってわかんないから、まず、ストライクゾーンの広い話題」
カン「でも、向こうから先に、好きな芸能人とか誰? って聞かれたらどうするの?」
拓弥「いるね、先手打ってくる奴」
カン「そういう場合は?」
拓弥「そういう想定される質問の答えは用意しておかなきゃなんないよね」
カン「え、誰だろ、誰だったらいいんだろ? 基準がまったくといっていいほどわからない」
拓弥「好きな芸能人は誰? って聞かれて、好きな芸能人、好きな芸能人、って考えるからいけないの、逆に考える、嫌いな人のいない芸能人の名前を上げる」
カン「うわ、すげえ、話題の裏技」
拓弥「好きとか嫌いとか、もう超越してしまっている人が好ましいよね」
カン「好き嫌いを・・超越!」
拓弥「美輪明宏さんとかね」
カン「美輪さんかぁ!」
拓弥「美輪さんにはもうみんなヨイトマケでしょう」
カン「え? え? なに? 今、なんて言った?」
拓弥「僕はね、好きな芸能人っていうと美輪明宏さんかな、って言っとくと安全」
カン「それで話は広がるものなの?
拓弥「広げる」
カン「どうやって?」
拓弥「これはね、かなり高度な技術を要するけど、上手くいったら、それはそれはもう、女の子の気持ちをかなり深いところで鷲掴みにできるんだから」
カン「美輪さんかあ・・盲点だな」
拓弥「ふいには思いつかない分、説得力が増す例」
カン「確かに」
拓弥「だからさ、普段、趣味が合うとか気が合うとかさ、あうんで会話ができる人としか会ってないと、いざ合コンってことになった時に、何話したらいいか、わかんなくなるわけだよ。気が付くとね、最近、自分の周りにさ、な、わかるだろう、って言って、わかるわかるっていう人間ばっかりだったりするんだよ」
カン「それはそう、それはそうだね、本当にそれはそうかもしれない」
拓弥「ね、そうでしょ、そうだよね、そうなんだよ。なんの前情報もない、自分の想定の範囲外で生きてきて、持っている情報も違えば、生い立ちも、生活のスタイルも、価値観も違う人と、ひと時、楽しいお酒を飲む、ね。一方的に自分の知っている話やら、興味のあるトリビアルな話を延々と開陳したところで、しょうがないんだよね。もちろん自分が何者であるのか、何が好きで、何が嫌いで、どんなふうに育てられ、なにを思って生きてきたのか、っていうことをアピールするのは重要よ、とても大事なことだと思うんだけど、それがイコール人が興味を持つ話か、人が楽しむ話なのかっていうと違うでしょう」
カン「違うよね」
拓弥「自分の話をしても持たない、なぜならば、そんなに面白い人生を送ってきてないから」
カン「あ痛! 痛たたたた!」
拓弥「自分がね、まず、ちっぽけな存在であることを知ること、そんなにおもしろい人間ではないことを知ること、ただいるだけで人が興味を持ってくれるなんて、夢にも思わないこと」
カン「それは思ってない、思ってない」
拓弥「そんなに波瀾万丈な人生を送ってるわけじゃないんだから『波瀾万丈』で五分と持たないよ」
カン「波瀾万丈で五分と持たない?」
拓弥「『波瀾万丈』は『波瀾万丈』だよ、野際だよ、福留だよ」
カン「ああ、そっちか、今日はひたすらテレビの話なんだな」
拓弥「とにかく、今日はカンちゃんの新しいガールフレンドを見つける! ね、これが今日の大命題なんだから」
カン「うん、うん、それはね、うれしいよ、拓弥ちゃんのその気遣い、痛み入るよ」
拓弥「二年二ヶ月も同棲していた彼女に三行半を突きつけられて、一人暮らしを始めたのはいいけど、寂しい寂しいと夜な夜な家に電話を掛けてきてね、そりゃ、最初の頃はまだこっちもね、ああ、寂しいんだな、話相手が欲しいんだなって思うわけじゃない」
カン「そう、その通りでした」
拓弥「でも、それが夜毎夜毎ってことになると、ちと迷惑だろうと」
カン「迷惑? 迷惑だった?」
拓弥「あ、いや、これを言ったのは僕じゃないからね、勘違いしないでね、これを言ったのは、僕と一緒に住んでいるサキミちゃんだからね」
カン「すいません、サキミちゃん」
拓弥「知ってるでしょ、彼女の性格、独占欲が強く、傲慢で利己的な人よ。タクちゃん、カンちゃんとばっか話してないで、少しはサキミーとお話するの! 相手して欲しいの!ってね、でもね、相手はしているんだよ。メチャメチャ相手しているの。最近、俺、働いてないからさ、一日中家にいたりするわけじゃない。だから彼女が仕事ない日なんかはさ、ずーっと二人きりなわけよ、だから『ハナマル』から『汐止めスタイル』から『報道ステーション』を経て『虎ノ門』までね、だらだら見ながらお菓子食ってビール飲んでずっと一緒よ」
カン「タクちゃん最近、働いてないの?」
拓弥「ないね」
カン「どーやって暮らしているの?」
拓弥「サキミちゃんに依存、って感じかな」
カン「依存?」
拓弥「依存、よりかかる・・」
カン「それは・・ヒモ?」
拓弥「うーん、まあ、何と呼ばれようが僕は痛くもかゆくもないんだけどね」
カン「今日は、どうしたの? サキミちゃんには何て言って来たの?」
拓弥「ん? 合コン行くって」
カン「サキミちゃんはそれで・・なんて言うの?」
拓弥「行ってらっしゃい、盛り上げなよーって」
カン「怒らないの?」
拓弥「怒る? なんで怒るの? それで、はいこれ、お小遣いって」
カン「お小遣いまで?」
拓弥「玄関で、火打ち石カチカチ!」
カン「それはちょっとわかんないけど、あーそう、そうなんだ」
拓弥「合コンでさ、こういう対人関係術っていうの? それを身につけて帰ってくるわけじゃない、腕を磨いて帰ってくるわけじゃない。合コンをおもしろおかしくして、家に帰って、そこで培った技術で、自分のガールフレンドを楽しませる、長い同棲生活に起こりがちなマンネリを打破する。いいことだらけじゃない」
カン「対人関係・・術か・・」
拓弥「まあ、そんなたいそうな事を言ってはいるけど、僕にできることはね、まあ、話題振ることくらいだからね」
カン「え? そうなの?」
拓弥「ちょっとさ、話とか一段落して、ふっとした沈黙が訪れる、ってことあるでしょう」
カン「うん、あるある」
拓弥「そんな時、すかさず話題を振る。僕の役目、沈黙を壊す。沈黙クラッシャー」
カン「振っておしまい?」
拓弥「それでさらに盛り上げる役割の人がいるわけだから、そこでバトンタッチ!」
カン「ああ、そういう役割分担があるんだ」
拓弥「僕はね、火種を投げるだけ。それを大きな炎にしていくのはまた別の人間の役割、基本的にはフォーメーションだから」
カン「え、じゃあ、僕の役割って・・」
拓弥「こっちはこっちでフォーメーションがあるんだけど、同じように女の子は女の子でフォーメーションがあるわけだよ、会話のフォーメーション、役割がある。だから、向うの布陣っていうの、メンバー構成をいち早く見抜く。ここでのポイントはね、とにかく、向うのメンツの中に、由紀さおりのポジションにいる女の子を、できるだけ早く見つけること、これ重要」
カン「由紀さおり・・の、ポジション?」
拓弥「そう、話題がどんなに横にそれようが、、オチでオチないとか、場がシラケようが、、最終的に笑いに変えてくれる子、バカ殿における由紀さおりのポジション」
カン「あ、ああ・・その由紀さおり」
拓弥「そう、由紀さおりを見つけることね。あ、でもね本当はね、本当の事を言うとね、向うのメンツの中に、磯野きりこがいると物凄く楽なんだよ」
カン「磯野きりこかぁ」
拓弥「まあ、なかなかいないんだけどね、きりこは・・」
カン「久本さんタイプとかは?」
拓弥「久本さんタイプがいるとね、どうしてもその子一人でがんばっちゃうからね。僕らのやることなくなっちゃうんだね。」
カン「それはわかる、わかるよ、わかる」
拓弥「だから、精一杯、間口が広く、敷居が低い、誰でも参加できる話題をふりながら、全神経で・・」
カン「由紀さおりを探す」
拓弥「そうそう、その通り! そうやって話題を繋げていく、話しを続けること、そこにいる人達と話続けること、ね。そうしていくうちに、その人がどんな人かわかってくる。自分と合う人なのかそうじゃないのか、もっというと自分がどんな人なのかってことが、人と話すことによってわかってくる」
カン「うん・・それはそうだよね」
拓弥「だいたいさ・・」
カン「なに?」
拓弥「人と出会いたいと思うのは悪いことじゃないだろ?」
カン「うん・・まあ・・ねえ」
拓弥「それでさ、どうせ出会うなら、自分のまったく知らない世界を持った人と出会う方がいいでしょう」
カン「うん・・まあ・・ねえ」
拓弥「それこそが、自分の世界が広がるってもんなんだからさ・・」
カン「そうだよね」
拓弥「出会いたいよね、いろんな人と、そして、楽しく話して、お酒を飲むんだ」
カン「そうだね」
  そして、待ち合わせの相手がやってきた。
  二人、彼女達に手を振り・・
  暗転。